情報大洪水の時代(その21)

「浪人するからには地元国立大の医学部医学科ではダメ!」

 

「1年間死に物狂いでやれば東大理科Ⅲ類も受かるはず!」

 

このようにその生徒のお父さんが自信をもって言うには、

 

じつは根拠があったのだった。

 

 

私はお父さんに対して、

 

「すみません、うちではお子さんを合格へと導くことができません」

 

と、正直に申し上げた。

 

 

そうしたらお父さんが力強く言った。

 

「先生ともあろう人が、何を言っているのですかっ!」

 

「いえいえ…」

 

「本当にうちの子を理科Ⅲ類に合格させる自信はないんですか?」

 

「はい、残念ながら…」

 

 

あきれたなぁ…という顔でお父さんは私を見ていた。

 

「本当に合格させる自信がないのですね?」

 

「ないです…、すみません」

 

「それは入試までに1年しかないから…ということですか?」

 

「いえ、そういうわけではなく、何年あっても難しいと考えています…」

 

「それって、先生が自信がないというよりも、うちの子にその可能性がないと…

 

私はそこでお父さんの言うことをさえぎって言った。

 

 

「いや、本当に自分にその指導力がないのです、あれば引き受けていますから

 

 

お父さんがこちらをしばらくじっと見ている状態で、私は真剣に答えた。

 

「私の指導力の限界を超えているのです」

 

もう一度言ったところで、お父さんがニヤリと笑った。

 

 

「先生、じつは私は東京で有名な塾と予備校の合計19校に打診してきたのですよ」

 

「19校…ですか?」

 

「そうです、19の有名な塾や大手の予備校ですよ」

 

「そんなに熱心に塾や予備校探しをしたんですね、行動力がすご過ぎですね」

 

 

内心私はそのお父さんに尊敬の念を持った。

 

親とはわが子のためにそこまですることができるものなんだな…と。

 

 

「それで、先生にぜひ聞いてもらいたいことが1つあるんですよ」

 

「私にですか、何でしょうか?」

 

(続く)