情報大洪水の時代(その24)

「600万まるまる全額ですよ」

 

「…」

 

「それでも、先生はまだ断るつもりですか??」

 

「……」

 

「先生…、どうですか?」

 

「わかりました」

 

「やってくれるんですね!」

 

「やりません」

 

 

お父さんが帰宅後、塾のスタッフを集めてこの話をした。

 

「600万円って、やっぱりあのお父さんの経済力はすごいですね」

 

「そうだね」(私)

 

「理Ⅲは難しすぎますよね?」

 

「そうだね」

 

「1年後はどうなりますか、●●ちゃん…」

 

「私立大学の医学部医学科だろうね」

 

「塾長にはわかるんですか?」

 

「わかるよ」

 

「国立の医学部は1年後でもだめなんですか?」

 

「いや、地方大学の医学部なら大丈夫だろうね」

 

「地方じゃだめなんですか?」

 

「本人ではなくて、お父さんが、ね」

 

「じゃあ、どこの私立の医学部に行くんだろうか…」

 

「東京の私大の医学部だね」

 

「東京の私大…ですか。合格しますかね、●●ちゃん?」

 

「間違いなく受かるだろうね」

 

 

1年後、そのお父さんから電話があった。

 

某私立大学の医学部医学科に特待で合格したので、そこに行くとのことだった。

 

 

「お父さんが大喜びで『うちの娘も医者だぁ』と言っていましたよ」(A先生)

 

「お父さんも●●ちゃんもそれで良かったんだよ」(私)

 

「でも、東大理Ⅲはどうなったんですか、あれだけこだわっていたのに!」(B先生)

 

「お父さんが言うには、東大の勉強は途中でくたびれてしまったそうですよ」(A先生)

 

「じゃあ、うちでも良かったんじゃないですか、塾長?」(C先生)

 

「いいんだよ、そういうことを経験して親子ともども、たくさん学んだんだから」(私)

 

「納得いかないなぁ」(別のスタッフ)

 

「それで…良かったんだよ、東京でもがんばってほしいね」(私)

 

 

(続く)